2010年8月1日日曜日

出口が無い

読売新聞2010年7月31日朝刊の編集手帳を紹介する。

与謝野晶子の歌にある。〈腹立ちて炭撒きちらす三つの子を為すに任せて鶯をきく〉。癇癪を起こして部屋を汚す3歳児を叱るでもない。後始末をするでもない。母は悠然とウグイスの声を聴いている◆晶子は11人の子をもうけた。生涯に5万首の歌を詠み、膨大な文章をつづり、苦しい家計をやりくりした人は、この図太さで子育てを乗り切ったのだろう◆育児放棄の悲劇に接するたび、この歌が浮かぶ。部屋は汚れてていい。ズボラでいい。食事と健康にだけ目を配り、あとは晶子流で図太く構える。できなかったか、と◆大阪市内のマンションで、3歳と1歳の幼児が遺体で見つかった。逮捕された母親(23)は「育児がいやになった」と供述している。食べ物も水も与えられたなかったのだろう。児童相談所にはこれまで、近隣の住民から虐待を疑う通報があり、職員が計5回にわたって訪問している。いずれも応答がなく、ドアは施錠されていたという。またしても瀬戸際の命を救えなかった◆長女は「桜子」ちゃん、長男は「楓」ちゃんという。その花と葉が季節を彩るころに生まれたか。美しい名前が哀しい。

桜子と楓。いい名前だな。報道によると母親はブログに「可愛い娘と毎日をのほほんと過ごせることが本当に幸せなことなんだとなんだかふと思いました」、「子どもが元気ないことほど、心が痛いことはありません」、などと綴っていたそうだ。産み捨てる母親がいる世の中で、ここまでは順調だったのに。

繰り返される悲劇に目の前が暗くなる。